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 AMAZONプライムに入会していまして、その特典でプライムビデオでかなりの数の映画やドラマが無料で見られるんですよね。でも、小さな画面で見ても面白くないなあ、なんて思って動画のサービスはこれまではあまり利用してこなかったんです。しかし、なんとなんとこれって自宅のテレビでも見られるってことに遅ればせながら気が付いて(ホント遅い)本腰入れて見るようになりました。年末に映画館で観た007の最新作が面白かったんで、正月休みは007シリーズを遡って見ていましたよ。

 で、今日の話題は007ではなく、寅さん。寅年なんで。「男はつらいよ お帰り 寅さん」です。これ、「男はつらいよ」の22年ぶりの新作で、後藤久美子の女優復帰ってこともあり制作発表の時は話題になっていましたが、公開されたときはそれほどでもなかったのかな、なんて思ったら、公開直後に新型コロナが発生してしまったんですね。興行的には不運な作品だったのかもしれません。それがプライムビデオにあったので見てみました。寅年だし。内容はこんな感じ。あ、ストーリーに思いっきり触れてますので、まっさらな感じでこれから見ようって方はこの先は読まないでくださいね。でも、大どんでん返しとか、犯人は!みたいな映画じゃないので大丈夫なような気がしますが。。

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さくらと博は老けメイクでしょうか
久しぶりに会った親戚の叔父さん叔母さんが歳とっちゃったなーって心の中で思う感じでした

 さあ、内容です。寅さんの甥っ子、満男はサラリーマンを辞めなんと遅咲きの新人作家としてデビューしています。満男は50年前の第一作で誕生しているので歳はたぶん50歳。奥さんは6年前に亡くなり中学3年生の娘と2人暮らし。なんとなく無気力と言うか元気がないように見えますが、その理由は長年行方が分からない伯父さんが恋しいのか、それとも初恋の人の泉ちゃん(後藤久美子ね)を今でも心のどこかで思い続けているのか、でしょうか?

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後藤久美子は相変わらずお美しい

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過去映像も可愛い

 ちなみに、御前様はもちろんの事(失礼)、おいちゃん、おばちゃん、隣のタコ社長も既に亡くなっていますが、寅さんだけは長年行方不明って設定のようで、さくらが二階はいつお兄ちゃんが帰ってきても良いようにかたずけているんだ、なんて言っています。みんなもう帰ってこないって分かっているけどそれを認められない、って感じなんですかね。

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でも、さくらの若いころはゴクミ以上に可愛いしキレイだし可憐

 さて、満男は出版社に説得され嫌々開催したサイン会で偶然泉ちゃんに出会います。泉ちゃんは今はヨーロッパに住んでいて、国連難民高等弁務官事務所の職員(凄い!)をしていてたまたま日本に帰ってきていたのです。満男は泉ちゃんが日本いる3日間を一緒に過ごすんですね。リリーさんの所や実家に連れて行ってさくらと博に会わせたり、施設にいる泉ちゃんの父親を一緒に見舞いに行ったり。互いに初恋の人であり互いに家庭を持っている身のためかなんともぎこちないやり取りが続きます。

 そんな中で満男は、こんな時伯父さんがいたらどうするだろう、どう声をかけてくれるんだろう、って繰り返し自問しています。伯父さん離れができていない50男の姿がそこにはありました。まあ、優しすぎるんでしょうね。物語の終盤、泉ちゃんとその母親が病気の父親の事で口論になり、母親が乗っていた車を降りてしまうのです。放っておけばいいと怒る泉ちゃんに向かって満男はそんなことしちゃだめだと諭します。伯父さんだったら絶対こう言うよ、って。伯父さんの言葉を待っているだけの満男が自ら代わりとなりその言葉を発した瞬間のように見えました。

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コロナの感染者数が増えると休日の海が混み始める気がします
みんな外出控えて近場で遊んでいるのかな?

 そして泉ちゃんとの別れる日、日本を発つ泉ちゃんを成田まで見送り、家に戻った満男に、娘が「おかえり」と声を掛けます。お父さんはこの3日間、どこか遠い所に行っちゃっていたみたいだった、って。この3日間は満男にとって、寅さんがしてきたような旅だったのでしょうか?またすぐに旅に出てしまう寅さんとは違い、旅から戻り夢から覚めた満男はこの先日常に戻り自分の世界に足を付け生きていくんでしょうね。

 この作品、おかえり寅さん、ってタイトルですが、当然寅さんは帰ってきたりしません。でも満男やさくら達が寅さんを思い出す場面で過去のシーンが挿入されるんですよね。長さ的にはこの回想シーンが全体の1/4位あるので、見ているこっちは当然「お帰り寅さん」的な気分になりますよ。このタイトルって観客我々に対してのものだったのかな、って思いました。

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 そうそう、映画の最後に満男が書き始める新たな小説のタイトルも「お帰り、寅さん」なんです。「こんな夢を見た」で始まるそのお話し。美しい女性を連れて戻ってきた寅さんが、その女性を俺の女房だよ、ってみんなに紹介するようです。それを書きながら満男の耳にはかつて伯父さんに言われた言葉「満男、困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ。伯父さん、どっからでも飛んできてやっから」が聞こえてきます。そして過去の伯父さんのいろんな姿を思い浮かべながら涙を流します。伯父さんのセリフ通りいつも自分の心の中には伯父さんがついていてくれるんだ、ってわかったからでしょうか?

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シリーズ48作目が渥美さんの遺作になってしまいましたが、
山田洋次監督は幻となった49作で泉と満男の結婚を、
そして50作目でシリーズを締めるつもりでいたのだとか

 この映画、これまでの作品とは異なり、過去のシーンを除いてドタバタした喜劇的なシーンはありませんし、大きな事件も起こらなければ劇的な展開もなく、淡々と話が流れていく印象です。それ故、こんなの「男はつらいよ」じゃない、って意見もあるようですが、それだからこそか、見ているこちらは、あの懐かしい親戚の一家に再会できたような気持ちになれますし、この22年、お互いに流れてきた時間を共有できたような気がしました。その暖かい気持ちを味わいたくて繰り返し見返したくもなります。いい映画ですよ。お勧めします。